| [ 山を歩いて美術館へ] 去りがたかった博物館 : 国立自然史博物館 (フランス) |
| 2 国立自然史博物館に静かに興奮する |
@ 植物園に行く A [比較解剖学と古生物 学のギャラリー] B [進化の大ギャラリー] 国立自然史博物館ホームページ http://www.mnhn.fr/ |
@ 植物園に行く 次の日、国立自然史博物館に行って、こちらはオルセー美術館とは逆に、大きな期待をしていなかったのに、すっかり魅了されてしまった。 シテ島の上流、アラブ世界研究所(ジャン・ヌーベル設計1987)と国立図書館(ドミニク・ペロー設計1996)の間に植物園Jardin des Plantesがあり、その中に展示施設が連なっている。 [比較解剖学と古生物学のギャラリー]Galeries d'Anatomie comparee et de Paleontologie [植物学のギャラリー]Galerie de Botanique [鉱物学・地質学・古植物学のギャラリー]Galerie de Mineralogie, de Geologie et de Paleobotanique [大温室]Grandes Serres などの建物が独立して並び、いちばん奥に [進化の大ギャラリー]Grande Galerie de l'Evolutionがある。 植物園の隣の動物園Menagerieとあわせて、全体が国立自然史博物館Museum National d'Histoire Naturelleになっている。 |
| A [比較解剖学と古生物学のギャラリー] 植物園のセーヌ側の入口から入ると、まず[比較解剖学と古生物学のギャラリー]があって、建物の外観も内部も古めかしい様子をしている。展示室は単純な長方形で、中央の広い平面を2層吹き抜けの回廊が取り巻いている。 中央の平面では、小型の哺乳類を先頭に、しだいに大型に、多数の4つ足の動物の全身骨格がこちらを向いて勢揃いしている。入口を入ると、まず動物たちが押し寄せてくる印象があって圧倒される。骨は象牙色をしているが、顔の前に突きだした鼻の部分が黒く丸く抜けているのがダース・ベイダー的に不気味。 そしてどういうわけかその行列の先頭には、ヒト♂の筋肉模型が1体。赤黒いような独特の彩色をしてある。 白ないし象牙色の4つ足骨格集団を引き連れるかのような、筋肉のついた人体模型。性器はイチジクの葉で隠してある。 これは、いったいどういうことだろうと驚かされる。 何かしらの思想を表現しているのだろうか。 生物の進化の先端にあるヒトとか。 ヒトは、あらゆる創造物のなかの最高の存在であるとか。 周囲の回廊ではガラス壁の棚に多数の標本を陳列してある。 近代の博物館が生物の分類体系を示す系統的展示をするようになる前段階の、珍しいコレクションを見せびらかし、驚かす施設であったころの名残りをとどめている。 たとえば、頭がくっついているヒトや胸がくっついているヒトの骨格標本。小さいうちに亡くなったのを標本にしたのだろうか。 あるいはトラの大きな肝臓。トラを説明しているとか、動物の内蔵を説明しているとかではなく、唐突にトラの肝臓がある。 |
| B [進化の大ギャラリー] セーヌ側入口からはいちばん奥にある。 ポール・シュメトフ Paul Chemetovとボルジャ・ユイドブロ Borja Huidobroのデザインで、30年間閉鎖されていたのを改築し、グラン・プロジェの最後段階、1994年に完成した。 側面は古典的な壁面を残し(写真下)、横に回ると現代的な観覧入口がある(写真左)。 若いチケット販売員からチケットを買って、若い案内員に導かれて自動改札の入口を抜ける。そこまではとくに目新しいことはない。ガラスから外の光が入って、明るい、ごくふつうのロビーである。 内部に入ると、やや戸惑いを覚えるくらいに暗い。 フロアの中央あたりまで行けば3層分の吹き抜けなので全体が目に入るが、全てのものが定かに見えるわけではない。闇の中にいくつもの光が点在しているのが見えるだけで、個々の展示物は、遠目には、闇の中にほとんど埋もれている。 地中海岸のニースから出発して、ル・コルビュジェの建築作品を見ながら北上してきたのだったが、パリほど大きくない南部の街で夜景の美しさが印象に残った。自動車道路のやや高い進入路から見知らぬ街に入って行くとき、あるいは川沿いの道を走っていて小さな谷を隔てた向こうにひとつながりの街が広がって見えるとき、控えめな灯りがポツリポツリと連なっているのがとても目に新鮮だった。くちなしの実の色とでもいったらいいのか、透明なオレンジだけれど、どこか黒い影を帯びているような灯り。日本のコンビニや街灯のような白く、まぶしく、ストレートにこちらの目にとびこんでくるような光ではなく、安らぎや、翳りや、懐かしさや、歴史の集積をさえ感じさせるような色であり光だった。 パリの進化の大ギャラリーの闇に点在する光を見て、その夜景を思い出した。 [比較解剖学と古生物学のギャラリー]では骨格標本が並んで行進していたが、ここでは生きている姿に復元された動物たちが行進している。その行列の後方、フロアに置かれたベンチに座っていると、心地よい闇にくるまれている至福を覚えた。 オルセー美術館では、感動しようと励ましてもさめていたのに、ここではしだいにうれしくなってくる。 ガラスの天井から降りてくる微かな明るさ。夜景のような照明。古典的な柱の列が作る力強さとリズム感。 互いに向き合った2基のエレベーターが2組、計4基の透明なガラスのエレベーターが、このシックな空間の中を上下している。 過去の風景のような、未来の風景のような、矛盾した感覚になる。たとえば「未来世紀ブラジル」の世界を思わせるような。(そのロケ地となった建築がパリ郊外にあるらしいが、行く時間はなかった。) しだいにこの空間から脱け出したくなくなっている。 同じように古い建築を現代に甦らせたものでありながら、なぜオルセー美術館には落胆し、進化の大ギャラリーには魅了されたのか、不思議に感じる。
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