街を歩いて美術展

1 1987年6月6日に安田火災東郷青児美術館で「パリ都市計画グランド・プロジェクト展」を見たこと
2 まれびとのむろほぎ
  2-1 まれびとのむろほぎの意味 / 2-2 まれびとの越後妻有アートトリエンナーレ2000

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 第1回熱海ビエンナ−レ(静岡県熱海市)



 熱海はもともと好きなところで、玄岳(くろだけ)や十国峠・岩戸山など、海を見ながら草原を歩いていく、とても気持ちのいい、晴れやかな気分になれる、至福のハイキングコ−スがあるし、もちろん降りてくるとMOA美術館や、澤田政廣記念館もある。
 
 ただ、あとは帰る電車に乗るまで時間のあるときに駅前の土産物屋さんをのぞくくらいで、いってしまえば熱海市でも冷山市でも関係ないようなものだった。
 熱海で屋外の美術展があるというのを終了日のほんの数日前に知り、終了前日にでかけた。(1999.11.13)


熱海市観光協会で地図をもらう。そのショ−ル−ムではタムラサトルのはりぼてのワニが回転している。
 海岸沿いに数点の展示。暖かい日で、半袖でいいくらい。浜辺で裸になってオイルを塗って寝そべって日光浴をしている男もいた。
 海岸では、地図に表示されている13番の作品が見つからなかった。ホ−ムレスのテントがあり、数人が暮らしているらしい。砂浜に降りる階段の手すりに毛布を広げて干している女性がいる。13番はグル−プでの出品になっているから、もしかしてこういう暮らしを見せるのが作品かと思ったのだが、あとで他のところできいたら13番は日時限定のパフォ−マンスで、今日はないということだった。ホ−ムレスの写真をとろうとしなくてよかった。失礼なことをしてしまうところだった。


 
銀座通り商店街、みやげもの屋とセブンイレブンの入っているビルの2階に西山真実さん。植物の葉や実を風のように描く。改装途中で使われなくなっている部屋で、キャンバスに描いたのを数点、展示しているほかに、壁にも直接描いている途中。作品がなければただの放置された部屋だが、そよぐような図の作品があることで、部屋の空気が淀まずに動いているように感じられる。「無目的の部屋で黙々と絵をかく人」のイメ−ジが残る。


 ホテル解体跡地では、汝隆一のパフォ−マンス。建物の骨組みの一部が残っている廃墟の2階から下をのぞきこんだり、ポリタンクの水を何杯もかぶったりする。2階から飛び降りたり、液体が実は油で、火をつけたりするのではないかと、僕は見ていてひやひやしたのだが、そんなことはなくてよかった。
 中身を抜き、グレ−に塗ったボディだけの車。あるいはわずかに残った廃墟に黄色く塗って吊された家具。それぞれに何かしら思いを喚起する作品だったが、また、パフォ−マンスも含め、解体跡地全体を眺めると寺山修司の映画の1シ−ンを見るようで、懐かしいような気分になった。




 圧巻は旧松下邸。道に面しているところは、天井の高い、町工場のような建物。中に入ると下へ降りる階段があって、古い熱海と今の熱海を取り混ぜた写真が展示してあるのを見ながら下へ下へと降りていく。
 最初の建物を抜け出ると別な木造の建物があって、周りを繁った草に囲まれている。17年も放置されていたという別荘らしき家で、熱海の海岸を見下ろす素晴らしい斜面に建っている。海に面する側に雨戸と障子を配して、開け放てば輝く海を眺められる−というように作られている。今は荒れて戸を外されていて、太い竹が数本、床を突き破って伸びている。
 ここでは原口典之が、座敷に水を張っている。雑草や、崩れかけた木の壁や、ほこりの堆積のために、乾いた、がさがさした風景のなかに、重く、透明で、潤っていて、きっちりと水平を保つ水の面をおいて、あたりを引き締めている。海を見下ろす部屋は松下邸の中心であり、それを生かしたいい展示だった。この眺めも長く記憶に残りそう。
 風呂や茶室もあり、剣持和夫の写真が配置されている。


  ずいぶん高低差のある邸宅だが、考えてみれば、最初の町工場に見えたものは温室・植物園だったわけで(というのに今ごろ気がついて)、それで植物の写真作品もあったのかと思いいたる。


ホテル解体跡地の廃墟の向こうには幼稚園があった。パフォ−マンスをしているとき、右手にある古い造りの家では、おばあちゃんと孫の男の子が垣根ごしに眺めていた。
今まで熱海に来たときにちょっと寄った土産物屋さんというのは、いわばよそ行きの顔だろうが、こうしたイベントがあって歩き回っていると、こんな道があり、こんな家があり、こんな風景があるのだなと、街の素顔がいくらかなりと見えてくる。


 熱海の場合、その素顔というのは、ホテルや別荘などが虫食い状に廃屋になっているという、あまりいい状態ではない。しかし、いつまでもお宮の松がいちばんの売りでは、かえって古めかしいイメ−ジを与えるばかり。20年ほども前に、紀伊国屋ホ−ルでつかこうへいの「熱海殺人事件」の公演があり、笑いすぎて呼吸が苦しくなりながら見たことがあったが、そこでは熱海が古くさい温泉地として取り上げられていて、その後も一般的にはそのイメ−ジは改善していない。
 このイベントが、何人の観客を呼び込んで、いくら熱海で消費したかと、短い見方で判断するのではなく、こうした企画を積み上げていくことで街としての成熟をはかっていくのがいいと思う。もともと歴史もあるし、MOA美術館もあり、都市を活性化するエネルギ−も十分にある。

 通り過ぎていた街が身近に感じられてくる。第2回も楽しみ。



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