| 宝登山から埼玉県立自然の博物館 |
| コレクションについてのいくつかのこと |
| 4 大学から標本が漂流する 収蔵庫には、剥製になった動物の群れがあったり、植物標本が箱に収まって積み重なっていたり、化石の埋もれたクリーニング前の岩石が転がっていたりする。 壁際に、整理された標本がきれいに収まったスチールのロッカーが並んでいるが、いちばん端に古い木製の標本庫がいくつかある。 まだ差し障りがあるといけないので詳細を省くけれど、ある国立大学にあった標本が入れ物ごと博物館に譲られ、保管されている。他にも分野の異なる数種の(といっても点数は膨大な)標本を受け入れ所蔵している。 日本の大学は資料を粗末にしてきた。貴重な資料でも、教官が替わるとただのモノになってしまう。ここの博物館が受け入れた標本にしても、そうしなければただ処分されてしまっていたかもしれない。蓄積や継続をしないで、ただその時を流れていく。 オランダから商館つきの医師として派遣されたシーボルト(1796-1866)は、日本に1823年から1829年の7年間滞在した。 鎖国の頃のことで行動に制約があったが、日本人の協力者もあって収集した大量の押し葉標本を持ち帰り、ライデン大学の標本室におさめられた。 このとき日本には標本が残されなかったので、その後、国内で植物の研究が独自になされるようになっても、ライデンのコレクションを参照しないで日本の植物を研究することは不可能であり、植物研究には「ライデンもうで」をしなくてはならなくなっている。 現在シーボルト・コレクションのほとんどを所蔵しているオランダ国立植物学博物館ライデン大学分館から、日蘭修好400年にあたる2000年に、そのなかから200点が東京大学総合研究博物館に寄贈された。それだけの点数でも、国内で研究できるようになり、画期的なことなのだという。 たった200枚の押し葉!の価値。 明治期には日本美術の優品が海外に流出している。ロンドンやパリやボストンなどで、かつての日本の傑作に出会うことになる。それはわりと広く知られていることだと思うけれど、科学の分野でも同様のことがあった。 それは当時のこととして仕方ないとして、今でも教訓を学ばずにいて、しかも知の中心であるべき大学でそんな有様だということには気持ちが暗くなる。 このところ見直しの気運はあって、大学が博物館を設置するようになっている。 1996 東京大学総合研究博物館 1997 京都大学総合博物館 1998 東北大学総合学術博物館 1999 北海道大学総合博物館 2000 名古屋大学博物館 2000 九州大学総合研究博物館 2001 鹿児島大学総合研究博物館 ときどき旧家の蔵や、亡くなった芸術家の縁故者の所蔵品から、所在がわからなくなっていた逸品が発見されて、どうしてそんな貴重なものが埋もれていたのだろうと驚かされることがある。今後は大学の博物館で所蔵品の整理・調査が進んで、とんでもないものがヒョッコリでてくることもありそうに思える。 とはいえ、大学の博物館も、人も施設も経費も十分とはいえない状況であるらしい。 最近、仙台に行ったときに、東北大学総合学術博物館にも行ってみたけれど、「総合」を目指してはいても、今のところは従来の理学部自然史標本館に間借り状態。 博物館や大学の独立行政法人の動きなど、経費削減の方向もある。 (→[蕃山から仙台のミュージアム 5 理系 :仙台市科学館 斎藤報恩会自然史博物館 東北大学理学部自然史標本館]参照) 環境との調和を目指せば、大量にモノを作り、消費して豊かさを追求する時代は終わりつつある。経済的観点からいっても、博物資源の確保や文化の発展にこそ経費を配分すべきで、それはムダな支出ではなく、将来を見通せば投資といっていい。 シーボルトの時代からして、浦賀に入ったアメリカのペリー提督が外交交渉をしている間に乗船者が各地を回って植物採集をし、函館にはロシアからマキシモヴィッチが入って函館や横浜などで採集している。当時でも国際的競争があり、先をいったところがさらに標本や人材や資金を集積していく。 しかもDNAの研究が進んで、単に研究上の利益だけでなく、産業面・経済面での利益に結びついてきてもいる。 標本の蓄積をしない大学。標本を所蔵する博物館の存在意義を認めない社会。 国内での「博物」をめぐる動きは、今のところとてもたよりない。 美術作品についても事態は同じ。 過去に学ぶ人はいないのだろうか? 将来を見通せる人はいないのだろうか? −と、考える。 |
|
| 参考: 東京大学総合研究博物館に寄贈されるシーボルト植物標本 大場秀章 ライデン大学植物学博物館 秋山忍 ライデンの日本植物標本コレクション Gerard Thijsse CD−ROM版「植物学の至宝、シーボルト・コレクション」 Pieter Bass シーボルトと彼の日本植物研究 大場秀章 ハーバリウム及び黎明期の日本植物研究の歴史 大場秀章 以上6編は「シーボルト日本植物コレクション」東京大学総合研究博物館 2000 「標本が日本の「資源」に!?大学に眠る宝の山」 日本経済新聞 2001.3.4 |
| 次へ→ |
| | 宝登山 | 埼玉県立自然の博物館 | | コレクション 1 パレオパラドキシア | 2 カルカロドン・メガロドン | 3 ローリング・ストーン | | 4 大学から標本が漂流する | 5 タイプ標本 | 6 虫の鎮魂 | | 長い長い歴史 | 長瀞のミュージアム | TOP | |