| 青木繁をめぐる旅 |
| 5 青木繁と | 福田たね |
「海の幸」の中央、一人だけこちらを向いている白い顔が福田たね。白馬会展に出品し評価をえた後に、たねの顔にかきかえたものという。 今見るものにとっては、あの白い顔も大きな魅力だ。ふっとこちらを見つめる目の表情。左から陽をうけて輝く頬。永遠という言葉をふっと思い出させる。 「わだつみのいろこの宮」も福田家の便宜によってできたものだったが、青木は福田たねの悪口を書き残している。 白々しくも学校出た許りの廿四の我を弄んだ女、密夫を捨てて我に走り寄った女.. (青木繁「仮象の創造」) 密夫というのは福田たねと小杉放菴との関係をさしてのことだと思われるが、実際にどういう関係だったかは、わからない。 青木は世紀末ヨ−ロッパの「運命の女」=男を不幸に導く悪い女、という考え方にひかれていて、福田たねをそのような女としてみたかったのだという説がある。しかし、青木が残した言葉のおかげで、自分のことを天才画家を苦しめた悪い女のようにいう人たちまでいる。 しかし、それにもかかわらず、福田たねのほうでは、夫の死後に再び絵をかき始めたなかに、「水橋村のわかれ」を回想して描いたものがある。 見ると明るい色調でさらっとかいていて、ちょっと意外な気がした。しかし、後の展開が今はわかっているから「とわの別れ」の劇的な場面のように思ってしまうが、送り出したときはこれが最期の機会とは思っていなかったわけだし、作品が評価されることへの期待があったろうということに思い至る。 承知で迎える別れは、もちろんつらいにしても明確だけれど、予期しなかったのに結果として最後になった別れは、後にまたそれなりのつらさを引きずるだろうと思う。何故もう会えないのか。今、相手は自分のことをどう思っているのか。幾度も疑問を繰り返すしかない。しかも青木は4年後には死んでしまい、答は永久に返ってこない。「水橋村のわかれ」を淡々と描くような心境になるまでに、どれほどの年月がかかったことだろう。 青木の28年の人生、福田たねの83年の人生。 今も見られる青木の作品、福田の作品。青木の思い、福田の思い。 美術作品を前にして実人生をあまり考えすぎるのはどうかと思うが、青木繁に関してはそうした見方を誘うところがある。あれこれ思っていると、遙かな気持ちになる。 |
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